記憶が引き連れてくる香り

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「これはこれは。おはようございます、坂月様。いらっしゃっていたのに、お出迎え出来ず申し訳ございません。」 執事が直ぐに坂月に気付き、丁寧に挨拶する。 それに続くようにしてメイドが口々に挨拶し出すと、坂月も会釈を返す。 「気にしないで下さい、佐武(さたけ)さん。私は普段なら中まで入らないし、忙しい時間帯だということも承知していますから。」 「恐縮でございます。ところで今日はどんな御用件で―?」 佐武、と呼ばれた執事は、そこまで言ってから、はっと懐中時計を取り出した。 「話中大変申し訳ないのですが、そろそろご主人様が外出なされますので、配置に着かせていただきます。」 坂月は気にしないでと言葉を掛けて。 「そうでした、ここにきた目的を忘れる所でした。秋元さん、ちょっと耳を貸してください。」 「え、なんですか。」 脇に居た沙耶を振り返って、内緒話をするかのような仕草をする。 「今日は、実は仕事じゃないんです。」 「―え?」 囁かれた言葉に、どういうことだ、と沙耶の目が丸くなった。 「石垣の叔父に当たる人間に呼び出しを受けていて、その家に出向くことになってるんです。これが中々の曲者でして、私のリストの中にも載ってる位要注意人物なのですが、この間に探りたいことがあるので今回私は同行致しません。ですがこちら側が勘繰っていることを先方に知られては困ります。それで、秋元さんに一緒に行っていただくことにしたんです。」 「えぇっ!!」 ボディガード、初任務、という所だろうか。
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