記憶が引き連れてくる香り

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そこへ―。 「おはようございます!」 昨日とは違って、一階の廊下側から出てきた石垣に、執事やメイド一同が揃って挨拶する声が響く。 「坂月、なんでお前いんの?」 「おはようございます、社長。」 石垣の髪はセットされているが、前髪は下ろしたままだ。 不機嫌丸出しの声にもたじろぐことなく、坂月は沙耶からパッと離れてにこにこと笑った。 「挨拶なんかきいてねぇよ。なんの用?」 「社長に用があったわけではありません。秋元さんに用があったので寄っただけのこと。何か癇に障ることでも?」 ―何で、怒ってるんだろう。 沙耶は、石垣の機嫌悪スイッチがいつ入ったのかわからず、二人の会話を聞きながら、首を傾げる。 「じゃ、そいつに何の用があったわけ?」 「答えなければいけませんか?」 坂月もいつになく挑戦的な物言いだった。 「そいつは俺のなんだよ。知る権利があるだろうが。」 「―後悔しても知りませんよ。」 坂月は不敵に笑うと、いつの間に手にしていたのか、さっきまでは気付かなかった紙袋を沙耶に差し出す。 「秋元さん、うちの社長が切り裂いてしまった洋服ですが、無事綺麗に直りましたので、お届けに上がりました。」 「えっ?」 急に差し出された物と言葉と状況に、沙耶は目を瞬かせた。
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