2918人が本棚に入れています
本棚に追加
/430ページ
「ねぇっ!そんな引っ張らなくても、私歩けるってばっ!放してよっ」
立ち止まりたいけれど、反対側に引っ張られているので、靴の踵ではブレーキを上手くかけられない。
抗議するも、石垣は完全に無視している。
「うぁとととと…」
数段の階段を危なげに下りきると。
「乗れ。」
「はぁあ?」
やっと解放されて、振り向けば。
ロータリーに待っていたのは出勤用の車、ではなくて―。
「・・・・・・」
これは。
―知ってる。
車とかブランドに疎い沙耶ですら、知っている。
石垣は慣れた動作で運転席に回る。
沙耶は助手席のドアの前で立ち尽くしたまま、車高の低い車―そのエンブレムに描かれた馬を見つめる。
―駿が居たら、きっと興奮して卒倒するだろうな…
「フェラーリ…」
―これだから金持ちなんか、大嫌いだ。
毎日唱えていると言っても過言ではない思いを、沙耶は心の中で呟く。
―車なんか一台あれば十分なのに。いくつもあっても無駄なだけなのに。
「何してんだよ、早く乗れって。」
既に運転席に乗り込んだ石垣が、助手席の窓を開けて沙耶に促す。
未だ眉間には皺が刻まれたままだ。
「・・・・・」
同じくらい沙耶も眉を寄せて、無言で助手席に乗り込むと、乱暴にドアを閉める。
最初のコメントを投稿しよう!