記憶が引き連れてくる香り

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座席に腰を下ろす途中で気付く。 黒の外装とは違い、中のシートは赤皮。 派手過ぎる。 が、そんなことに動揺している場合ではないようで。 「シートベルト締めないと危ねぇぞ。」 「―えっ?」 聴く人が聴けば、美しいエンジン音がしたかと思うと。 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」 この世のものとは思えない程の乱暴な加速が始まった。 「こんのぉぉクソ男~~~~~」 結局、公道に出るまで沙耶はシートベルトを握り締めるのが精一杯で。 「うぷ」 勿論、完全な車酔い。 げっそりした沙耶は、ちらりと隣の憎い男を見やる。 「なっ…んで…っきょ、、今日に限って…運転手さん、、、居ないの…」 「…一応今日はプライベートだから俺の車。」 反して、視線を交わらせることのない、機嫌最悪度MAXの男。 「あんた…運転、、辞めた方が、いーよ…」 最低限の忠告だけしてから、沙耶は窓の外に目をやった。 一般道を行き交う普通車が何故か懐かしい。 けれど、自分の乗っている車が好奇の目で見られていることにもなんとなく気付き、居心地が悪い。
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