記憶が引き連れてくる香り

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「さっきあいつと、何話してた?」 人通りが少なくなってきた頃。 ふいに、石垣が口を開いた。 「あいつって?」 大分気分は落ち着いてきたものの、ピリピリとした空気はそのままで、変な緊張感が漂う中、沙耶は訊き返す。 「坂月に決まってんだろ。」 「まだそんなこと言ってんの?ただの挨拶よ。」 出発してから、かれこれ30分は経過していると思うのに、まだその話かと呆れた。 同時に、渡された紙袋の存在を思い出し、そっと中を見る。 ―待たせてしまって…なんて…。たかだか二日三日位しか経ってないんだし、あんな風に謝ることなかったのに。むしろかなり早くてびっくりなんだけど。 ワンピースはまるで新品の何かのように、立派な箱に入れられていて、今開けて確認する気は起きないが、嬉しくない訳がなかった。 心がほっこりして、沙耶の口元が緩む。 が。 「……今度から、坂月の半径1m以内に入るなよ。」 「は?!」 突如、出された命令に、沙耶は目を剥く。 「ばっ、ばっかじゃないの?!まだ仕事だって教えてもらわなきゃならないことが沢山あるし、絶対関わるのに、そんなの無理に決まってるじゃない。そもそもそれに何のメリットがあるのよ?」 「五月蝿い。お前にとってのメリットなんか関係ねぇよ。とにかく近づくんじゃねぇ。」 「~~~!!!じゃ、何?糸電話かなんかしろってこと?!」 「お前頭悪過ぎ。」 「ふっ、ざけないでよっ!じゃどーしろって言うのよ??」 「大きな声で話せば良い」 「そんなの、ハタからみたらバカみたいじゃない!」 「いいだろ、本当のことなんだから。」 「!」 一方的で不毛なやりとりに沙耶は黙り込む。
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