記憶が引き連れてくる香り

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恐らくオブラートを外した状態にするならば。 『お前、ワシに相談もなしに何勝手なことやってんじゃボケ!』 『あんさんにいちいち相談せなあかん義理なんかあらしまへん』 ということなのではないか、と沙耶は勝手に解釈した。 「ふん、、、まぁ、いい。ところで、こないだの無礼者にはそれなりにきちんと返報してやったんだろうね?」 面白くない、と顔に書いてある叔父は、話題を別物に変える。 「はい。」 「全く。お前が自分で全部どうにかするっていうから何も手出ししなかったが―、私なら即刻この国から追いだしてやったものを。身元はわかったんだろう?」 ―何の話だろう。 沙耶はまたしても中身の見えない話に歯痒さを感じた。 「はい。」 今度も、石垣は大した受け答えをせずに、のらりくらりとかわしている。 「どこのどいつだった?ああいうことする奴はロクなもんじゃないだろう。」 「…忘れました。もう、用もありませんので。」 「ほほぉ、亡き者にしてやったのか?それか相応のことか?はっは、いいぞ。」 石垣の答え方が気に入ったのか、叔父はその膨れた腹をゆすって愉快そうに笑った。 沙耶も和んだように見える雰囲気にほっとして、やっとのこと湯呑みに手を伸ばす。 が。 「ワインをぶっかけられた上に暴言を吐かれるなんて石垣家始まって以来の恥だが、あんな女一人消すことなど、赤子の手を捻るよりも簡単だわい。暇つぶしにもならんな。」 叔父の笑いは止まらないが、その台詞に沙耶の動きは完璧に止まる。
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