記憶が引き連れてくる香り

26/61

2918人が本棚に入れています
本棚に追加
/430ページ
「はっ、はやすぎっ…」 文句のひとつでも言ってやろうと、口を開くが。 「お前運転して。」 石垣の信じられない言葉に、沙耶はぎょっとする。 「はぁ?むむ、無理に決まってんでしょ、こんな車ぁー!」 「大丈夫だって。俺助手席に乗るから、ドア開けて。」 沙耶の訴え空しく、石垣は助手席の前に当たり前のように立っている。 「なっ、なんであんた運転しないのよぉー、つーかそれくらい自分で開けなさいよっ」 「うるせぇ。早くしろ。」 「っっ!!」 いつもの俺様かと思いきや、石垣の様子はやはり何かがおかしい。 沙耶は仕方なく助手席を開け― 「死んでも恨まないでよね。私は死なないけど。」 石垣にそう言い捨てて、ドアを閉めた。 ―なんで、急に… 色んな事がありすぎて、沙耶の情報処理能力は著しく機能が低下している。 ―つーか、フェラーリ!よりによってフェラーリとか! 運転免許は、父に勧められ、18になって直ぐにとったから、あるにはある。 しかし、直後に父が急逝。 車なんて持つ余裕もなく、当たり前の如く沙耶はペーパードライバーとなった。 つまり教習所を出てから、一度も乗っていない。 ―ほんと!知らないから! 沙耶は自棄になって頭をぐしゃぐしゃぐしゃと掻き毟ってから、運転席に乗り込んだ。
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2918人が本棚に入れています
本棚に追加