記憶が引き連れてくる香り

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―なんじゃこれ! 席に座ってとりあえずハンドルを握ってみるものの。 「こ、これって、マニュアル???」 オートマ限定の沙耶は動揺を隠せない。 「マニュアルって言ったらマニュアルだけど、オートマって言ったらオートマ。」 隣で訳わからない事を呟く男。 「どっちなのよ!」 ―くっそー、、もうどうにでもなっちまえ! 沙耶は頭の中で教習所で習った事を必死で思い出す。 しかし。 「な、ないない。。これ、こ、こ、こういうのが付いてない??」 ある筈のものが見当たらずに、沙耶はジェスチャーで隣の男に伝える。 「ない。」 「ええええ?!あるでしょうよ!なんだっけ、、えっと。。。ブ、ブレーキ…そうだ!サイドブレーキとか、、足元にあるやつとか!!」 完全にパニックになった沙耶を石垣は怪訝な顔をして見つめた。 「自動だから、ない。」 「………」 意味がわからず、言葉を失う沙耶に、石垣がハンカチに包んだ鍵を差し出す。 「エンジン、かけろ。」 何故素手で鍵に触れないのか、一瞬疑問に思ったが、今はそれどころではない。 受け取った鍵を真っ白になった頭で差込むが、何度やっても上手くいかずに石垣に切れられる。 すったもんだの上、最終的に石垣がハンカチで鍵をつまんだまま、エンジンをかけてくれたので、やっとのことフェラーリが発車した。 うるさいエンジン音とは反して、沙耶の気分は沈んでいくばかり。 更に行き先に会社を指定され、益々落ちていく。 「フェラーリの癖に低速とか、まじ恥だわ。」 途中石垣の吐く暴言に噛み付きたくても、扱いにくすぎる車に集中力を使っていて、言葉が出なかった。
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