記憶が引き連れてくる香り

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一時間半後。 やっとのこと会社の前の道路に到着。 道は空いていたのだが、沙耶の運転に難有りで、行きよりも倍の時間がかかった。 「つ…着いた…」 沙耶は車を路肩に気持ち寄せて、安堵の息を吐く。 緊張のせいでへなへなと力が抜けて、背もたれに寄りかかった。 「あんた、もっと別の車にしなよ…国産が良いよ…」 ぶつぶつ呟きながら、沙耶はちらと横を見る。 が。 「…って、、え?!」 ガチャ、とドアを開け、さっさと降りるお隣さん。 「ちょちょちょっと。この車どーするのよ?!」 驚きながら訊ねても、相手はすでに外。 沙耶は坂月からもらった紙袋をひっつかみ、慌てて石垣の後を追った。 「ねぇってば!」 途中途中声を掛けても、無人の会社の中へと石垣は立ち止まることなく進んで行ってしまう。 エレベーターホールまで行って、漸く追いつき、一緒に乗り込んだ。 が、息が整わない。
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