記憶が引き連れてくる香り

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必然的に無言で石垣を見ることになるのだが。 何故か石垣も沙耶の事を睨んでいる。 ―?私が睨むならわかるけど、なんでこいつに睨まれてるの? 戸惑って数秒経過した後、沙耶は異変に気付く。 「え?何でこれ動かないの?」 エレベーターが動いていない。 「ボタンを押してないからだろう。そんなこともわかんねぇのか、使えねぇ秘書。早く押せ。」 呆れたように天を仰ぐ石垣に、沙耶は怒りを露わにした。 「いや、なんであんたが押さないのよ?!普通先に乗った人間が行き先階ボタンを押すでしょう?!」 文句を言いながらも、沙耶は最上階のボタンを押す。 「エンジンをかけた時と、さっき車から降りる際に、ハンカチの使用範囲を全て使い果たしたから無理。そもそも扉の開閉とかそういう類は秘書の仕事だろ。」 「はぁぁ?!」 意味のわからない理屈を、当たり前のように言い切る石垣。 「ハンカチの使えない範囲って何よ?!それにねぇっ、扉の開け閉めぐらい自分でしなさいよっ」 上昇するエレベーターの中。 沙耶はひとりでぶつくさと文句を呟き、石垣は知らん顔で黙っていた。
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