記憶が引き連れてくる香り

33/61

2918人が本棚に入れています
本棚に追加
/430ページ
そこへ。 RRRRRRRRRR 「うわ。」 突然の電話のコール音に、沙耶はびくりと肩を震わせた。 「え、出た方が良いのかな。何の電話だろ。」 会社は休みになっている筈だというのに、なぜだろう。 勿論内線のコール音ではない。 外線は基本下で取るので、ここで鳴ることは滅多にない。 直接ここの電話番号を知っている外部の人間がいるのだろうか。 「はい、石垣グループ本社秘書室社長秘書秋元でございます。」 肩書きを噛まずに言えた事に、軽い達成感を覚えつつ、沙耶は相手の声に耳を傾ける。 《―また新しい秘書か、あいつも困った奴だな。そこに諒はいる?》 かけてきたのはどうやら若い男のようだが。 「―失礼ですが、どちら様でしょうか。」 《諒に代わればわかるから別に良い。居るなら代わって。》 横柄な物言いに、沙耶のこめかみがピクリと動く。 石垣の知り合いならば、大方偉い人間なのかもしれないが。 「……失礼ですが、耳は聞こえてらっしゃいますか?お名前をお伺いしているのですが。」 礼儀とかマナーには金持ちも貧乏もないと沙耶は思っている。
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2918人が本棚に入れています
本棚に追加