記憶が引き連れてくる香り

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「ん、サンキュ。じゃーな。」 結局捕らわれたまま、電話は終了となった。 「はなせっ!」 石垣が受話器を置いた瞬間に、沙耶はここぞとばかりに激しく腕を振り払ったのだが。 「いっ!!!」 予想外に石垣があっさりと腕を解放した為に、沙耶は思いきり尻餅をついた。 「あっ、あんたねぇっ!!!!」 無表情のまま、石垣が沙耶を見下ろす。 「飯、付き合え。」 「?!はぁ!?誰があんたなんかと…」 半切れの沙耶に構うことなく、石垣はスタスタと出て行ってしまう。 「ちょっと!!!待ちなさいよっ!」 ―もぅ、あったま来た! 怒りに身を任せて、大股で後を追うと、エレベーターホールで追いつく。 「あんたっ…」 「あ、そうだ。今日着てたスーツ、クリーニング出しといて。」 「うぁいっ!?」 エレベーターが開き、石垣は悠々と乗り込む。 沙耶も後に続き、石垣を睨む― 「あれ…」 そこで沙耶はあることに、気付く。 当然のように、エレベーターが下降していくからだ。 「あんた…ボタンなんで押した…」 「あぁ、お前の仕事だったよな。」 ついさっきまでは、どこかに触れることすらも、しなかったのに。 ―お風呂に入ったから? 「…そんなに…叔父さんの家って汚いの?綺麗に見えたけど…」 さっきから感じている疑問を口に出せば。 「は?」 石垣は心底馬鹿にしたような顔を作って沙耶を見た。
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