記憶が引き連れてくる香り

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勝ち誇ったようなその顔を見て、沙耶は言葉を失った。 ―く、悔しい… 悲しいかな、それでも食欲はなくならない。 ―お金があれば、なんでも優先されるのかしら。 本家に近い場所まで行ったせいか、心がいつもよりもナーバスになっていた。 暗い気持ちを振り払うように、首を横に振る。 ―こんなんじゃいけない。。。よーし!こうなったら、とことん食べてやるわ。 沙耶は開き直って、とっくに姿を消した石垣の後を追った。 ―うわぉ。 店内の上品な造りに沙耶は目を奪われる。 白を基調としている家具で揃えられており、そのどれもが満席だ。 昼の光のせいか、室内はとても明るく見える。 きょろきょろと見回すと、ずっと奥の方へ入っていく石垣の背中が見えた。 ―あんな奥にも席があるのかぁ。 首を傾げながら自分も同じ方へと向かう。 「お。」 角を曲がると明らかに他から隔離された個室を匂わせるドアがあって。 「中へどうぞ。」 開いた傍にはさっきのオーナーが立っていて、沙耶に笑いかける。 「あ、、ありがとうございます。」 勧められるまま、沙耶は中へと入り、二度驚いた。 「ひ、広い。。何ここ…」 外から見た時の想像をはるかに越えて、個室は広かった。 こういうのをいわゆるVIPルーム、と呼ぶのだろうか。 テーブルと椅子は勿論、食事中にどう寛ぐというのか、別個にソファもある。 家具のひとつひとつ、掛けられている絵も、通ってきた場所とはワンランク上のものが置かれているような気がした。
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