記憶が引き連れてくる香り

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「さ、どうぞ。」 立ち尽くす沙耶に、オーナーが席に座るよう促し、椅子を引いてくれる。 「あっ、す、すいませんっ。」 沙耶ははっとして、慌てて言われた通りにした。 「適当に持ってきて。」 既に席に座っていた石垣が、メニューも見ずにオーダーすると、オーナーは笑みを絶やすことなく、元気に返事をして姿を消した。 まるで予約してあったかのようなテーブルセッティング。 予想はしていたが、覚悟はしていなかった、石垣との向かい合わせ席。 「………金持ちは良い気なもんね…」 暫くの沈黙の後、結局沙耶の口からは厭味しか出てこなかった。 「金で動く人間も人間じゃねぇ?」 「え?」 予想外のひねた返答に、沙耶は驚く。 石垣のことだから、『たりめーだろ』とか『羨ましいか』とか言うのではと勝手に決め付けていたからだ。 「世の中がそうできてんだ。仕方ねぇよ。」 何かを諦めたかのような、石垣らしくない答え。 そして、その答えは、沙耶の考えとも一致する。 「あんたにしては出来た答えね。。」 「は?ふざけんなよ。」
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