記憶が引き連れてくる香り

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「すいません」 駿が走り去った方角を見つめながら、坂月が申し訳なさそうに謝る。 「…いえ。私も訊きたいことがありましたから。」 予想していたのか、沙耶の返答に対し、坂月は意外そうな顔はしなかった。 「…そうですね…、とりあえず、駐車場に車が停めてあるので、その中でお話しても良いですか?」 沙耶にしても、道端でするような話ではないと思っていたので、素直に頷く。 途中、駐輪場の位置を教えてもらい、沙耶はそこに自分の自転車を停めた。 地下の駐車場には、厭味な程に高級車ばかりがずらりと並んでいて、その中のひとつに、見覚えのある白のベンツが主の帰りを待っていた。 「どうぞ。」 助手席のドアを開いてくれる坂月に、沙耶は小さく頭を下げて乗り込む。 それを見届けると、バタンとドアが閉められ、坂月が運転席に乗り込んできた。 「どっちが先にしますか?」 ハンドルに肘を着いた坂月の問いに、沙耶は一瞬首を傾げ。 「私が先に話した方が良いですか?それとも、秋元さんから先にしますか?」 そこまで言われて漸く合点がいった。 「あ…あぁ…えっと、じゃぁ、、私からで。沢山あるんですよ。」 訊ねたいことは山ほどあった。 リストアップしても良いくらいだと思っている。 いや実際リストに書き上げた。 会社から持ち帰って来た黒革の手帖を、沙耶は鞄から取り出す。
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