記憶が引き連れてくる香り

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「あははっ、別に怒ってませんって。やけに早いなって思ってた位ですから」 痛みに悶える坂月を見て沙耶は豪快に笑う。 「……そ、そうですか…」 絶対に怒っているに違いないと坂月は確信していたが、これ以上の衝突は避けたほうが身の為だということも重々承知していた。 「さ、じゃ、坂月さんの話とやらと、私の疑問をさっさと解決してくれません?駿がお腹を空かせて待ってますから!」 うふふと笑う沙耶が、今しがた駐車場に入ってきた車のライトによって照らされ、凄みが増すように感じる坂月。 何故なら、沙耶は普段ほとんど笑っていないのだ。 いや、ほとんどではない。 会ってから今まで、楽しそうに笑ったことなど一度としてあっただろうか。 「えっと…じゃ、そうですね…ちょっと、中身を今聞かせて頂いても?」 「どうぞどうぞ!」 明る過ぎる助手席に恐怖を感じながら、坂月はレコーダーにイヤホンを付けて耳に当てる。 最初は早送りにしていたが、佐伯の家に着いた辺りから再生し、注意深く会話に聞き入った。 沙耶はそんな坂月を横目に、石垣と最後に交わした会話を思い返していた。 彼を取り巻く、決して白くない環境を、垣間見た気がした。
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