記憶が引き連れてくる香り

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「もう少し落ち着いて行動してくださいね。」 坂月が小さく笑んで、少し我慢してくださいと呟く。 薄暗い車内。 至近距離で、お互いを繋ぐのは一掬いの撓(たわ)んだ髪。 沙耶は罠に引っかかったうさぎよろしく、しょんぼりと坂月の大きな手がそれをほどいていくのを見つめた。 ―なんか、変な距離感。 坂月はいつでもどこでも、常に沙耶と一定の距離を保っているように感じる。 そのせいか、ここまで近づいたのは、石垣邸の庭で助けてもらったあの夜以来だ、とぼんやり思った。 「…私が情報を小出しにしているのは、別に悪気があるわけじゃないんです。」 囁くように言う坂月は、今、自分のボタンと絡まった髪とに目を落としている。 「天然には見えませんけど。。」 恨めしげに言い返すと、坂月は声を立てて笑う。 「はは、天然でもないですけど…まぁ、許してくださると嬉しいです。はい、外れました。」 自由になった髪が、重力ではらりと落ちた。 「あ、ありがとうございます。」 沙耶も元の位置に戻って、ドアに背中を預ける。 「―さっきの話に戻りますが。。。あの事故の一件から社長の命が狙われているようだ、と確信して、調査に入っているんです。佐伯様は限りなく黒に近いかと思うんですが、中々尻尾を出さないので、まだ詰めるには甘いんですよね。」
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