記憶が引き連れてくる香り

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沙耶の頭の中で情報はまだ処理し切れていないが、なんとなくなら把握したような気分になった。 「…大体わかりました。あ、あとひとつだけ。どうして、今日のスケジュールが空いていたのか、の質問にまだ答えてもらっていません。」 訊ねると、坂月があぁ、と頷く。 「そう、それも、さっきまでしていた話と関係があるんです。」 彼が再び口を開く前に、どこからか黒電話のベルのけたたましい音がして、沙耶ははっとした。 「すみません、私のですっ」 わたわたして鞄の中の携帯を漁ると、駿からの着信だった。 ―限界か。 時間にしてみれば、坂月と話していたのは、30分ないし40分。 恐らく空腹が、駿に電話をかけさせたのだ。 「あ、じゃあ私弟が居るので、今日はこれで失礼します!坂月さん、先に出ていいですよ!」 慌てて沙耶は鞄を持ち、ドアを開け外に出る。 すると、勧めた通りに動く坂月の車の助手席側の窓が開き。 「スケジュールが空いているのは、今日が社長の母親の命日だからです。それでは、お疲れ様でした。」 また小さな謎を残し、白のベンツは颯爽と闇夜に消えた。
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