茜色の後の雨と、霞む空

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会社用の送迎用ジャガーに石垣と乗り込んだ沙耶は、発車と同時に黒革の手帖を捲り、栞の挟んである部分に目を留める。 「今日の予定です。朝10時より上層部を集めての会議が行われます。レジュメはこちらにあります。」 ぴらりとファイルから取り出し、石垣に手渡す。 「予定時間は12時迄となっていますが、後は賛同が得られるかどうかなので、もう少し短くなるかとは思います。13時30分からは、鳥島建設の設楽さんが進行状況を報告しに本社にいらっしゃいます。15時から金融誌の取材が入っておりまして、14時40分から撮影機材の設置を第二会議室で行うそうなので一応知っておいて下さい。…ええと、それから決裁して頂く書類が山ほどありますので、合間を見計らって目を通して頂けると助かります。19時からは予定しておりました講演会に挨拶に顔を出すことになっています。以上です。」 「あ、どこかに、そうだな―取材から講演会までの間にちょっと時間が空くだろ。そこにカフェ部門の視察を入れてくれ。」 石垣の注文に沙耶はうーん、と手帖を見ながら悩む。 「そうですね、場所にもよりますけど、、でも、全部は無理です。どれかに絞らないと…行けても2店が最高じゃないですか。」 着任早々、雨の中を走り回った苦い思い出が沙耶の胸の内に甦る。 「わかった。じゃ、一番近いコクスィネルコリーヌの他に2店回る。」 「えっ!だから!今言ったでしょ!?3店は無理だって!取材だってかなり時間がかかるんだから18時まで食い込むかもしれないし!」 「無理じゃない。入れろ。それがお前の仕事だ。」 「ばっかじゃないの。」 「それはお前だ。」 賑やかな車内で、運転手は沙耶の仕事っぷりに密かに舌を巻いていた。 初日とは別人である。 それ程、この一ヶ月の沙耶の成長は著しかった。
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