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石垣は電話が掛かってくるかもと言っていたのではなかったか。
「なんで来客?!」
沙耶は今しがた置いた受話器を直ぐ様取り上げ、耳に当てる。
《はい、井上―》
「坂月さん!?嘉納って男が今会社に来てるそうだけど何か聞いてますかっ!?」
間髪容れずに叫んだ沙耶。
一瞬の沈黙。
―しまった。
坂月も会議中なことを失念していた沙耶は唇を噛む。
《秋元さんですか?申し訳ありません、井上です。ご存知かとは思いますが、坂月専務は只今会議中でして…嘉納といいますと―??孝一様が?》
井上は坂月の秘書で、あちこちを勝手に飛び回る彼に手を焼いている。
そのせいか、中々一緒に行動している場所を見ることはない。
「こちらこそ、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。。仰る通り、嘉納孝一様だと思いますが…社長は会議中ですし…」
言いながら壁に掛かる時計に目をやる。
会議が始まってまだ一時間も経っていない。
《嘉納様の事は私も聞いてません。しかし、いらっしゃってしまったものは仕方ありません。お通しして、秋元さん、暫くお相手していて下さい。》
「えっ、あっ……はい…」
《よろしくお願い致します》
静かになった部屋にカチャン、と空しく響く受話器の音。
―そうですよね。
沙耶は項垂れた。
まさか、一人きりの時に、あの失礼な男と顔を合わすことになろうとは。
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