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「諒は会議中でしょう?少し待たせてもらってもいいかな。」
「あ、し、失礼しました。今ご案内致します!」
金持ちイコール悪だという方程式を念頭に置いている沙耶は、初めて会う部類に入るだろうこの男に出鼻を挫かれた思いだった。
攻撃されれば直ぐに反撃できる構えを取っていたのに、相手から醸し出されるラブアンドピースに戦意消失だ。
そのせいか調子が狂う。
「こちらで少々お待ち下さい。直ぐにお飲み物をお持ち致します。何かご希望はございますか?」
認証ゲートを通り、応接セットに案内し訊ねれば。
「あぁ、ありがとう。じゃお言葉に甘えて―ホットの珈琲をいただけるかな。」
石垣の口から聞くことは一生ないのではないかという感謝のお言葉を頂戴する。
「はい、かしこまりました。」
笑顔で応じ、給湯室へ向かった沙耶。
―金持ちに、あんな人がいるもんだろうか。
独りになった途端、案の定疑心暗鬼に駆られる。
―ていうか、あの人本当にあの電話の男?!
悶々としながら、コーヒーメーカーに挽いてあった粉をセットする。
―なんか引っかかるなぁ。
『諒は会議中でしょう?』
沙耶の頭の中にはさっきの嘉納の言葉が繰り返されていた。
―そうだと知っていたなら、どうしてこの時間にわざわざ来たんだろう。
待つとわかっていながら。
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