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「お待たせしました。」
ソファで待つ嘉納の姿勢は正しく、相変わらず穏やかな空気を纏っている。
―胡散臭いかなぁ。
沙耶は腑に落ちないような、落ち着かないような気持ちになりつつ、ローテーブルの上に、カップとソーサーを置いた。
「ありがとう。」
そんな沙耶ににこりと微笑みかける、王子のような男、嘉納。
「直ぐに温めたミルクとお砂糖お持ちしますね。」
「あ、いや、いいよ。どちらも要らない。これは―グァテマラ、だね」
首を振って、嘉納は湯気の立つ珈琲を一口啜ると、満足気に頷いた。
「わかるものなんですか?」
言い当てられた銘柄に驚くと、嘉納はうーん、と困ったような顔をする。
「分かる、と言えるほどのものじゃないけど…前に働いていた店で珈琲を淹れたことがあるから。俺はどちらかと言えば、紅茶の方が得意だったけど。」
沙耶は今度は違う意味で驚いた。
「お店で働いていたことがあるんですか?」
御曹司だと言うのに。
況(ま)して、今や嘉納コンツェルンの上に立つ人間だと言うのに、だ。
「…おかしい?」
一瞬寂しげに呟く嘉納に、沙耶は言葉に詰まる。
「あっ、、、いえ、、別におかしくは…」
「いや、いいんだ。おかしいと思うのが普通だよ。」
焦ってフォローしようとする沙耶を、嘉納は優しく制した。
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