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「ま、それはいいとして、パーティーで諒にあれだけのことをやっていながら、どうして君は秘書なんかやってるの?」
―げ。
いつ切り替わったのか、と思う程、予想だにしていなかった振りに、沙耶は先程から二の句を継げないで、ただ目を瞬かせる。
心臓がドキリ、と鳴ったのは言うまでもない。
―この人、あそこに居たんだ。。そりゃそうよね、仲良いんだもんね。。
「いや、質問が違うかな。どうして諒は君に秘書をやってもらうことにしたんだろうね?」
内情を知っているらしい嘉納が、方向を転換してくれたおかげで、幾らか答え易くなった沙耶は、肩を竦めて見せる。
「―わかりません。仕返しの為、だそうですけど。」
「仕返し?」
「仕返しを考えるために、傍に置いておくって言ってました。」
黙りこんだ嘉納に、沙耶も口を噤む。
改めて考えてみても、おかしな話だと思ったからだ。
「それこそ、おかしい」
やがて、嘉納が首を振って呟いた。
「君は知らないだろうけど、あの一件がもしも世間に公になったとしたら大変な騒ぎになる所だった。それを諒が根回しして口止めさせたんだ。君の顔が割れないようにも配慮しないと、堂々と雇うことなんて出来なかった筈だ。それだけでも相当の金が飛ぶ。」
嘉納の視線が、目の前に置かれたカップから、ゆっくりと離れ、沙耶に注がれる。
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