茜色の後の雨と、霞む空

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「知りもしない人間に、そこまでする程諒は仏じゃない。むしろ逆だ。―君は本当に諒とは初対面なの?」 「ばっ、あんな金持ちの奴と私が接点なんかある訳ないじゃないですか!」 一瞬ばかやろうとここまで出そうになったが、なんとか引っ込めた。 沙耶の脳内には、目つきの悪いミニマム石垣が浮かんでいる。 ―あんな胸糞悪い奴に会ってれば、嫌でも記憶に残ってるでしょうよ! 幸い気付かれなかったようで、嘉納は手を組んで、思案顔をしている。 「諒に訊いても教えてくれないだろうな。」 若干面白がっているように聞こえる言い方で、嘉納の視線はさらに天井へと延びていく。 「ま、その答えはお楽しみにとっておくとして。今日は君に忠告しに来たんだ。」 「―忠告?」 世間話の延長のような間延びした空気。 珈琲の香りが暖かい木漏れ日によく似合う。 沙耶は特に構えもせずに、反射的に訊き返していた。 「君のボスは、諒だからね。その他の人間を余り信用しない方がいい。」 「え?」 その場とその声に不釣合いな、穏やかじゃない内容に沙耶は思わず視線を上げた。 「たとえ、どんなに近しい人間でもね。」 気付けば、珈琲から湯気が消えていた。
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