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pm21:12
「つーかーれーたー…」
一ヶ月経ってもまだ慣れない我が家の玄関に、沙耶は倒れこむようにして帰宅した。
パンプスであちこち歩き回った脚はパンパンに浮腫んでいる。
黒のピカピカのフローリングに、確実に10歳は老けた自分が映る。
「姉ちゃんおかえりー!飯食った?」
待ってましたとばかりに廊下の先にあるドアの向こうから飛び出してきたのは駿だ。
「…まだなのー…」
「聞いて驚け!今日は炒飯にわかめスープ付き!」
エプロンを着け、手にしたお玉をびしっと天井に向けて決めポーズをする弟の姿に、沙耶は涙が出そうになる。
「冷凍で良いので餃子も付けて下さいっ」
「仕方ねぇなぁ!まぁ手洗ってこいや!」
「らじゃ!」
このマンションに越してきてから、沙耶の仕事は本格化し、定時に帰ることはまずなかった。
そのせいか、駿が先に帰宅した時は、下手なりに食事を準備してくれるようになった。
ほぼインスタントに頼っているのだが、そこらへんは文句は言わない。
あるだけ、ありがたいというものだ。
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