茜色の後の雨と、霞む空

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======================== 髪を切られて泣いたあの日。 初めて、出逢った日。 栗色の髪の男の子に見つかって、沙耶は気まずい思いをした。 恐らく強張った表情をしていたことだろう。 笑うこそすれ、労わるような声をかけてくれるような親切な子供は、沙耶の周りにはあの時存在しなかった。 だから、余計に怖かった。 どうしていいかわからず、しゃがんだまま、彼を見上げる沙耶の目つきは険しかったと思う。 けれど彼は、そんな沙耶の態度をさして気にする風もなく、むしろ安心させるかのように優しく微笑みながら言ったのだ。 『ここには誰も居ないから、泣いても誰も見ていないよ』と。 魔法のようなその言葉に、沙耶は堰を切ったように泣きじゃくった。 小さく丸めた背中には、温かい手があやすように置かれて、人の気配が嫌だった筈なのに、安心できた。 小学校に入るか入らないかくらいの頃の話だ。 弟や親戚の子の手前強がっていても、沙耶だって、本当は心細かったのだ。 断片的にしか記憶は残っていないが、それから何回か、その男の子は竹林にやってきた。
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