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元々元気がない時、人目に付きたくない時だけ行っていた沙耶の秘密の場所。
竹林の端まで行くと、古くて大きな樹が植わっており、洞(うろ)ができていた。
そこに身を寄せると、小さな身体はいとも簡単にすっぽりと隠れた。
二度目に彼に会ったのは、そこだった。
祖母の財布から金が無くなったことを、他の子の居る前で沙耶のせいにされた日だった。
沙耶自身は犯人がわかっていたし、今考えてみれば祖母もわかっていたに違いなかった。
実の娘の子のせいにするわけにはいかなかったのか、それともただ単に沙耶が嫌いだったのか。
理由は何にせよ、祖母に散々な罵声を浴びせられて、泣きはしないまでも、心中には嵐が吹き荒れていた。
『うわ。』
膝を抱えて、洞に身を寄せ、木々の隙間から零れる光を見上げていると、どこからともなく声がして、沙耶は口から心臓が飛び出すかと思った。
二度と会う事はないと勝手に決め付けていたからだ。
『なんでそんな所に座ってるの?』
驚きの声を上げた男の子も勿論目を丸くして沙耶のことを見下ろしている。
『―あんた、ふほうしんにゅうって知ってる?』
苛々が募っていたこともあり、つっけんどんな物言いに男の子は呆れたように笑った。
『別に不法に侵入したわけじゃないよ。道が続いてたんだよ。』
沙耶は疑わしげに彼を見上げたが、後になって、竹林を囲む塀が、老朽化の為に崩れて大きな穴ができており、外と繋がっていたという事実を知った。
『名前、なんて言うの?』
先日は訊かれなかったことを訊ねられ、沙耶は返答に窮する。
果たしてこの男を信用していいのかどうか。
毎日子供同士腹の探りあいをしていた沙耶は、警戒心がかなり強かった。
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