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「浮かない顔してますね?どこか具合でも?」
翌朝出社し、沙耶がデスクに両肘を付きながら溜め息を吐いた所、接客用のローテーブルにパソコンを広げていた坂月と目が合ってしまった。
「…いえ別に。ちょっとリアルな昔の夢を見て、寝不足なだけです。」
そうなのだ。
ここ最近古い記憶がちょくちょく沙耶の眠りを妨げて不愉快この上ない。
身体はくたびれ果てているのに、寝ても休んだ気がしない。
偏頭痛持ちの沙耶には辛い悪循環なのだ。
「―昔、ですか。」
「そういえば、坂月さんって下の名前って何て言うんですか?」
「え…」
もう一ヶ月以上経つというのに、沙耶は坂月のフルネームを知らなかった。
役職が高いせいで、誰も坂月のことを下の名前で呼ばないし、唯一上司の石垣は坂月、と呼んでいる。
突然の問いに驚いたのか、無言で見つめ合うこと数秒。
「・・・楓(かえで)、です。」
少しの間の後、坂月が小さく答え、フイとパソコンに視線を逸らした。
「楓、、良い名前ですね!秋生まれですか?」
「―ええ、まぁ。」
上がった沙耶のテンションとは逆に、坂月の返事はそっけない。
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