茜色の後の雨と、霞む空

27/42
前へ
/430ページ
次へ
視察を一通り終えた後は、セレモニーの方の準備に取り掛からなければならない。 と言っても、もう沙耶にできることはなく、お昼の心配をする程度なのだが、式の終わった後振舞われるという軽食まで我慢するべきか迷う。 しかも今見てきた限り、レストラン街も全体的に高い。 フードコートに行けば、幾らか安価なものが見つかるかもしれないが、使わなくていいのなら、極力使いたくない。 会社では、近頃弁当持参で食べているのだが、今日は出になっていた為、荷物になるだろうと持ってこなかった。 「昼、どうする?」 案内の男と話を終えた石垣が、部屋の外で待っていた沙耶に訊ねる。 「どうするって…」 「準備してくれてたらしいんだけど、断ったから」 「へっ!?」 狼狽する沙耶を置いて、石垣はスタスタと先に行ってしまう。 「ちょちょちょちょ、なんで断っちゃったのよーーー!!」 有り得ない、とこぼすと、石垣は露骨に顔を顰めた。 「よく知りもしない人間と堅苦しく飯食って何が良いんだよ。」 「そうはいっても、タダじゃない!仕事でご飯を食べれば良いだけ、なんてめちゃくちゃ良いじゃない!」 「お前は本当にそればっかりだな。別にお前に出させねーから。」 「そういうの嫌なのよ!借りを作った感じがして。」 現に、沙耶はあのフランス料理以来、石垣と食事に行くことはしていない。 石垣自身、多忙の余り、ほとんど食事をしない日も多かった。 秘書としてそこまでも面倒を見なければならないのか、と考えたりもしたが、何しろ石垣のことが嫌いな沙耶は、見ないフリを決め込むことにしていた。 だから。 「…それも仕事の内だ。それなら良いんだろ?」 「うっ…」 これを言われてしまうと、言葉に詰まる。
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2925人が本棚に入れています
本棚に追加