茜色の後の雨と、霞む空

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「人一人居なくなった位で仕事が回んなくなるってことは、それくらいその人が使えるのか、他ができないかのどっちかなんだよ。」 「はっ、なせっ…」 苦しげに顔を歪める男はまだ抵抗を続けている。 「その采配はパートじゃなくて店長の腕にかかってんだよ。ったく、お前みたいな奴が、働く女を駄目にすんだ。あんたもこんな奴に気なんか遣ってないで、とっとと帰りな。子供にとっての母親はあんた一人しかいないんだから。」 何も言い返せない程に締め上げたまま、沙耶は視線だけ女に向けて言う。 「はっ、、はい…」 女がその場を立ち去ると、漸く沙耶は男を解放した。 「げほっけほっ…け、警察!誰か警察呼んでくれ!」 半狂乱になって叫ぶ男を、沙耶は冷めた目をして見つめる。 「何が警察!よ。呼んだらこっちが訴えてやるっつーの。従業員をあんな風に怒鳴ったりして。少しは公衆の迷惑を考えなよ。」 「あんたに関係ないだろう!何様だと思ってるんだ!」 怒りで顔を真っ赤にした男は、被っていた白衣帽を床に叩きつけると、沙耶に飛びかかった。 「望むところよ」 へへ、と笑った沙耶がカモンと手招きした瞬間。 「―そこまで。」 ひょい、と沙耶の身体が脇に避けられ、勢い余った男がダストボックスに派手にぶつかった。
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