茜色の後の雨と、霞む空

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「いった…」 「無鉄砲過ぎるんだよ、お前は。」 掴まれたままの左腕は、エレベーターの角の壁に、貼り付けられて。 石垣に目の前から睨まれる格好になっている。 「見つける前に、スーパーに行ったら、万引き犯をOL風の女が吹っ飛ばして捕まえたって聞くし…その後あんな所で一体何をやってるのかと思えば―」 ここで石垣ははぁ、と深い溜め息を吐く。 「いいか、ここは俺の息のかかった場所なんだよ。同時に責任があるんだ。好き勝手にやっていい場所じゃない。」 きっちりとセットされた栗色の髪が、沙耶の視界を過ぎる。 「大体捕まえるなら捕まえるだけでいいだろうが。それをなんで暴力を振るうんだ。さっきの男にしてもそうだ。注意するだけで良かった筈だ。」 ―何よ。 沙耶の中で沈静化しつつあった苛々が再び燃え上がり始める。 「幾ら腕っ節があるからって、自分のボスがこれからセレモニーを開く直前にんなことするか?秘書としてどうなんだ?いや人としてどうなんだ?」 ―何よ。 くどくどと詰め寄る石垣を前に、沙耶の空いている右手がぎゅっと固く握り締められる。 「そんなんじゃ午後からが思いやられ…「誰のせいだと思ってんだよっ!」」 「ぶっ」 ―やってしまった。 そう思うのは、いつだって後なのだ。
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