日香里・私の娘

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日香里(ひかり)は、私の娘である。 無論私と見合いするはずがない。 今回は、ちょっと休憩して、娘の婚活話である。 私がキリスト教徒なので、日香里なる名前は、「世の光」すなわちイェス・キリストから来ているという美しき誤解が教会ではあり、その美しき誤解を否定せずそのまま放置しているが、本当は鉄ヲタの私が、当時の新幹線最速列車からつけたのである。 日香里は一度も見合いしていない。職場結婚である。勤務先の高校で、数学教師を引っ掛けた。 私は、彼が娘さんと結婚したいと挨拶に来るまで、存在さえ知らずにいた。あれに限って、恋人なんぞ出来るはずがないと確信していた。 もし「美人」というものの要素が、顔限定で、目・耳・鼻・口のレイアウトだけで決まるなら、親馬鹿かも知れぬが、日香里は美人である。 ところが、美人の構成要素には、プロポーションという項目が加わる。 この領域では、娘は明らかに美人を逸脱している。 身長が175cmもあるのだから、体重も70kgまでに留めれば、「ぽっちゃり」程度の評価で済むのだが、彼女の体重は、文字通り桁違いの105kgである。 こんなんを欲しがる男がいるとは、神の恵み、または、サタンの誘惑である。 これを逃したら、後がないという判断から、現状引き渡し、返品お断りで嫁に出した。 日香里はひとり娘であるが、ひとり娘になった経緯は、日香里自身にも若干の責任がある。 日香里が学校にあがるまでは、二人目どころではなかった。 聾者の子育てというのは、子供の泣き声が聞こえない訳だから、常に子供を視界内におかなければならない。やっと学校に上がって、二人目計画が発動されたが、友達が遊びに来た時、子供部屋に閉じこもり、母親には、「今日は手話使わんでね、恥ずかしいから」と言い放って、ケーキだけひったくって、また部屋に閉じこもった。 以来、日香里に恥ずかしい思いをさせてまで二人目はいらないと、生本番は中止された。 この話を、今なら打ち明けても、日香里は大人の女として、また母として聞けるだろうが、もうこの話は、墓場まで黙って持っていこうと決めている。 血は争えぬ。 鉄ヲタに日香里と名付けられた娘は、自分の娘に 希(のぞみ) 桜 と、鉄ヲタ丸出しの名をつけている。
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