智美さん・よき法律家は嫌い

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智美(さとみ)さんは、私と同い年である。 保育専門学校卒の保育士であった。 仲人口というのは、たいがい無茶を言う。いくらビジネストークでも、自分自身の前言と矛盾した事を言ってはいけない。 大卒の旦那と専門卒の奥様、男女はそれくらいが釣り合いがとれて良い。 本気なら、せめて、 前回は博士課程卒なんて、「不釣り合いな」女性を紹介して申し訳ありませんでした と、一言詫びるべきである。 社交辞令だろうが、 智美さんが、 法律学って、さぞかし難しいことを勉強なさるんでしょうね。お付き合いする中で教わりたい というから、見合いの席で一席ぶった。 法律学なんて難しくありません。まず六法を丸暗記します。 次に、自分(または依頼人)にもっとも利益になるような屁理屈を考え出します。この屁理屈を専門用語では、「法解釈」と言います。 あなたは、先月お金を使いすぎ、同僚に、3000円借りて、給料日に返しました。 借用書も書かず、領収書も取りませんでした。 同僚は返してもらったことを忘れ、再び返済を迫ってきました。給料日に返したじゃないかと、反論しても、すっかり忘れていて、ついに裁判に訴えました。 さあ、あなたは、裁判官にどう言うべきでしょうか。 決して 借りてたけれど、もう返しました と言ってはなりません。 裁判の世界では、原告被告双方が争わない事柄は、事実として確定します。 借りてたけど、 の部分で、「金銭の貸借があった」ことは、双方争わない事実として確定します。 争われている事実は、 「返済があったかどうか」ですから、裁判所は、あなたに、 「本当に返済したんですか?証拠は?」 と要求し、領収書を取っていないあなたは、裁判に負けます。 この場合、裁判に勝つためには、 借りた覚えがない 言うべきです。 すると、「金銭貸借があったのか」が争われるわけですから、裁判所は同僚に 「本当に貸したんですか?証拠は?」 と要求し、借用書を取っていない相手が負けます。 智美さん「なんか法律学って、いやらしい学問ですね」 私「その通り。だから西洋の諺では、『よき法律家は、悪しき隣人』と言います。」 この縁談は先方が断ってきた。 理由は、「悪しき隣人お断り」 智美さんは、 悪しき隣人が隣の家に住んでたら迷惑この上ないが、我が家に飼っとくと便利 と考えるには、まだ若すぎた。
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