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そういえば、こんな事を言っていた気がする。
『誰も居ない、現実から切り離された場所へ行きたいなぁ。』
こんなことも言っていた気がする。
『山に囲まれた、砂浜に
海の、地平線が見える
人の居ない
現実から切り離された場所。
私達が壊れたら、そこへ逃げなさい。
――が壊れる前に、そこへ隠れなさい。
必ず、そこで、身を守りなさい。』
『ーー』には私の名前が入るのだろう。
壊れる、か。
いつ壊れるのだろう。いや、壊れたのだろう。
「高良、私には名前があったのか。」
「ええ。知りたい、のですか。」
「いや、知らなくていい。今はもう無い名前だから。」
それに、名前があった所で、呼んでくれる者なんていない。
「お望みなら、お名前でお呼びします。」
「んー、いや…。高良に名前を読んでもらう時は、新しい名前になったら。…………すべて、解放されたら、もし、そんな事があれば、その時は呼んで。」
「仰せのままに。」
***
「お嬢様、ここからは車が通れませんので歩く事になります。」
「ああ。分かった。唯を連れていけるか?」
「大丈夫です、お嬢様。」
それにしても一体なぜこんな所に行きたいと嘆いたのだろう。
なぜ、ここに来いと告げたのだろう。
「高良、唯を安全に落としてくれ。」
「よし、落ちるぞ。」
どういうわけだか、草をかき分け見つけた谷に落ちていけば、辿り着く。
現実離れした場所に。
体がふわっと浮くような落下を感じ、お腹がきゅぅうとなるのには慣れない。
だか、谷が深すぎてそのうち飛んでいる様な錯覚を起こす。
視界が閉ざされ、右も左も、上も下も分からなくなると、
気付けば私は眠っている。
そうなれば、終わりは近い。
降り注ぐ光りの明るさに、
背中から感じる暖かさに、
私は目を覚ます。
「お嬢様、お体は大丈夫ですか。」
「何も無い。高良と唯も大丈夫…なのは当たり前か。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
ふと、思った。
これは現実か夢か。
「現実から切り離された場所であり、お嬢様が作り上げた夢の世界でもありません。」
結局はよく分からない場所なんだろうな。
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