第1話

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そういえば、こんな事を言っていた気がする。 『誰も居ない、現実から切り離された場所へ行きたいなぁ。』 こんなことも言っていた気がする。 『山に囲まれた、砂浜に 海の、地平線が見える 人の居ない 現実から切り離された場所。 私達が壊れたら、そこへ逃げなさい。 ――が壊れる前に、そこへ隠れなさい。 必ず、そこで、身を守りなさい。』 『ーー』には私の名前が入るのだろう。 壊れる、か。 いつ壊れるのだろう。いや、壊れたのだろう。 「高良、私には名前があったのか。」 「ええ。知りたい、のですか。」 「いや、知らなくていい。今はもう無い名前だから。」 それに、名前があった所で、呼んでくれる者なんていない。 「お望みなら、お名前でお呼びします。」 「んー、いや…。高良に名前を読んでもらう時は、新しい名前になったら。…………すべて、解放されたら、もし、そんな事があれば、その時は呼んで。」 「仰せのままに。」 *** 「お嬢様、ここからは車が通れませんので歩く事になります。」 「ああ。分かった。唯を連れていけるか?」 「大丈夫です、お嬢様。」 それにしても一体なぜこんな所に行きたいと嘆いたのだろう。 なぜ、ここに来いと告げたのだろう。 「高良、唯を安全に落としてくれ。」 「よし、落ちるぞ。」 どういうわけだか、草をかき分け見つけた谷に落ちていけば、辿り着く。 現実離れした場所に。 体がふわっと浮くような落下を感じ、お腹がきゅぅうとなるのには慣れない。 だか、谷が深すぎてそのうち飛んでいる様な錯覚を起こす。 視界が閉ざされ、右も左も、上も下も分からなくなると、 気付けば私は眠っている。 そうなれば、終わりは近い。 降り注ぐ光りの明るさに、 背中から感じる暖かさに、 私は目を覚ます。 「お嬢様、お体は大丈夫ですか。」 「何も無い。高良と唯も大丈夫…なのは当たり前か。」 「お気遣い、ありがとうございます。」 ふと、思った。 これは現実か夢か。 「現実から切り離された場所であり、お嬢様が作り上げた夢の世界でもありません。」 結局はよく分からない場所なんだろうな。
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