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すぐ後ろの座席でこっそりと涙を流す梨緒を知ってか知らずか、武将は全方位に気を配りつつ操縦を続ける。
(嫌われちまったかなぁ…
とは言え生徒の質問に答えないなど教官失格だ)
梨緒と同様武将も後悔している。
相手は孫位の年齢の少女。
もっと他にマシな答え方はなかったものか…
…と。
(しっかりしろ武将。
年端も行かぬ少女を泣かせる奴があるか)
自分で自分を叱り付ける武将。
やがてその脳裏に、一筋の光明のようなものが閃く。
そして武将はゆっくりと口を開くのであった。
「今度は私から質問だ瀬峰生徒。
君が女学生だった頃、打ち壊しや焼き打ちは起きなかったのかい?」
泣いた烏が云々という訳ではないのだが、梨緒は正直驚いていた。
デモや抗議集会をすっ飛ばして、いきなり焼き打ちだの打ち壊しだの物騒な言葉を聞くとは思わなかったのだ。
やがて梨緒は、懸命に涙声を隠しつつ口を開く。
「打ち壊しに焼き打ち…ですか?」
「ああ。
君の話を聞いた限り、平成時代は凄まじい物価高に見舞われているようだからね」
「確かに物価は上がってましたけど、打ち壊しも焼き打ちも聞いた事ないです」
「なんと!
特高(特別高等警察)は随分前に廃止されたらしいが…
日本人も随分とおとなしくなったものだ…」
如何にも不思議そうに武将が呟いた。
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