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二人の会話は続く。
「君の話では、省線(のちの日本国有鉄道。現JR各社)の初乗り運賃が100圓以上するらしいじゃないか」
「はい。
それが何か変ですか?」
「大いに変だとも。
100圓といえば航空隊大尉クラスの月給の四倍だ。
それこそ東京と大阪を、特急の一等で何往復出来ることか…」
「ひ、100円で東京と大阪を何往復も?
…無理ですよそんなの」
今度は梨緒が驚く番であった。
だが、やがて梨緒の心にいたずら心が生じる。
考えてみれば、妖界に来てからというもの何かと武将に振り回されてばかりに思える。
そこで梨緒は、たまには自分が武将を振り回してもバチは当たらないのでは…
…と考えたのだ。
それを知ってか知らずか武将は言葉を続ける。
「まあ、帝国が金満家だらけになったのは日本人として喜ばしい限りだが…
君の御父上は大会社の社長か何かかい?」
「いえ、学習塾を経営しています。
塾が休みの日には、空手道場に部屋を貸していますが」
「十分金持ちの部類に入るよ瀬峰生徒。
お年玉には自家用車でも貰ったのかい?」
少し冗談めかしながら武将。
梨緒は待ってましたとばかりに口を開く。
「まさか。
ニ万円くらい貰っただけです」
「なんと!
女学生のお年玉が二万圓…」
武将の生きた時代と梨緒の生きた時代との貨幣価値は、単純計算して約5000倍もの開きがある。
つまり梨緒は武将に、お年玉に1億円貰いましたと言ったも同然なのだ…
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