漂礫―ヒョウレキ―

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 ――暗くも暖かい微睡の中、聴覚を劈く様なアラームが響いた。私は共通思考領域から自我を追い出され、意識は暖かい夢の暗闇から冷たい現実の躯体へと還る。  この感覚は失楽園にも似ていると私は思う。現実に打ち込まれた楔とでも言うべき躯体に意識が墜ちるのを、誰が喜ぶだろうか。もし居たとしても精々が唯物論を唱える者ぐらいだろう。  安眠装置(クレイドル)に横たえられた自分の躯体に意識が戻って最初に思うのが、全身に万遍無く掛かってくる重さであり重力だ。  人類が創り出した世界とも言える共通思考領域では、神に因る天地創造は為されておらず、林檎から手を放したとしても落ちる事はない。宇宙への進出ではなく、宇宙を創出する事で人々は無限と錯覚してしまうような膨大なスペースを手に入れたのだ。 「……はて、どうしたものか」  瞼を動かす事ですら大儀に思えた。仰向けで寝ていると胸部に圧迫感があるのも不愉快だ。肉体があるとこうも煩わしいものか。うつ伏せだと胸の均整が崩れてしまうのも面倒だ。
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