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課長が私には気を許してくれているのは嬉しいんだけど、どうせこれ以上距離を縮めることは出来ないんだから。
それがやっぱり切ない。
そこでふと思い出したように口を開いた荒木課長。
「そういえば、さっき木戸先生から電話があった」
「木戸先生ですか?」
携帯を確認したけど私に着信はない。
さっきって、会社を出てからもうずいぶん時間が経っている。
「会社にな。『岡本さんの仕事は終わりましたか』って聞かれた。だからもう帰ったって言ったんだけど、帰ってなかったな」
いたずらっ子みたいな悪い笑顔でワインを口に含む課長が、少し嬉しそうに見える。
課長って木戸先生と仲が悪いのかな?
前に木戸先生のパワフルさに当てられて、疲れ果てていたことはある。
私から言わせれば課長だって仕事のときは、木戸先生とは違うパワフルさがあると思うんだけど。
自分のことはわからないものなのかな。
「何か用でもあったんでしょうか? 私、かけてみます」
「いや、食事に誘いたかっただけらしい」
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