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まさかそんなはずはない。
まだネクタイは緩んでいないし、テーブルに肘もついていない。
疲れているだけ?
それとも私をからかっているの?
ワインに酔っているのはもしかして私のほう?
課長は何も言わずに届いた料理を口に運ぶ。
育ちがいいのか、いつ見ても上品で。
「食べないのか? 冷めるぞ」
「食べます」
つい見惚れてしまった。
実はこっそり1度だけ触れたことのある唇。
酔いつぶれた課長を自宅に運んだときに、内緒で薄いその唇を人差し指でなぞった。
口づける勇気はなくて。
眠っていたはずだから課長は知らない。
私だけの秘密。
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