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果たして外に出るのは何年ぶりだろうか。
いつも部屋の隅で縮みこまっていた飛和にとって、その光は何よりも眩しいものだった。
ゆらゆらと今にも風に吹き飛ばされそうな麦わら帽子のつばを掴み、マンションを後にする。
お出掛けの目的はちょっとした散歩がてら、足りなくなった食材の補給に買い物だ。
向かうのは瀬川という広い公園と、近所のスーパー。大した外出でも無いが、何年も経って漸く出掛ける気になっただけでも大きな進歩だと言えるだろう。
自分を一生懸命励まして、勇気を振り絞り第一歩を踏み出した飛和。
前を向くと先ず見えたのは、こちらをちらりと見やり通り過ぎた男女二人組だった。
「……ぅ」
ほんの少しの間だったが他人の視線に二つも同時に当てられて、飛和は早くも挫けそうになりながらぎくしゃくに歩き出す。
何故だろうか、既に鼻の奥がつんと痛くなっていた。
「…………」
まだ数分も経っていないというのに視界が霞んで、全く前が見えない。
誰かが振り返る度、びくんと揺れる肩。喉に込み上げてくる何かを必死に飲み込むと、これ以上泣き顔を誰にも見せたくない飛和は俯いた。
心臓が早鐘を打ち、激しい苦痛を訴えてきているのが容易に判る。
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