壱ノ章

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だが、折角の飛一の提案を断るのも、飛和には到底出来なかった。 ここで最後の機会を見過ごすと、どう足掻いても社会に出れないのは火を見るより明らかなのだから。 (こんな臆病で我儘な自分が、もうホント大嫌い…) 今も未だ続いている激しい動機と熱い頭を鎮める為、目の覚める様な冷水を手のひらいっぱいに掬い、ばしゃばしゃと音を立てて顔を洗った。 ----------- 顔を洗って少しさっぱりとした飛和は自分の部屋に戻ると、ダラダラと普段着のジャージに着替えベッドに飛び込み、枕に顔を埋める。 大きく揺れる感情に翻弄されて再度泣きそうになった飛和は、苦渋の表情を浮かべこれからの事を真剣に考えた。 だが、どう行動すれば正解に辿り着くのか、混乱している今の彼女では答えを導く事など不可能に近い。 それに例え飛一が相談に乗ったとしても、弱音の一つも吐けやしない。 まだ彼を完全に信頼している訳では無いので、きっと無意識の内に気を配り遠慮してしまうだろう。 「どうしよう」 切羽詰まった苦い思いと誰も導く事は無いだろう気の迷いを、掠れた小声で僅かに吐き出した。
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