壱ノ章

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────その時、腹部に何かが触れている様な違和感をはっきりと感じた。 硬く、先程の冷水を連想させる様な冷たさを腹の下から感じる。 「?」 腕を立てて腹を上げ、その違和感の正体を確かめるべく視線を落とすと、飛和は眉を歪ませた。 (……本?) そこにあったのは、厚めで文庫本程のサイズの本だった。 その表紙は無地で鮮やかな浅葱色、題名はどこにも書かれていない。 一度も見たことが無い本だ。飛一の本だろうか。 それにしても目が覚める程の冷たさなのに、なぜ自分は気がつかなかったのだろう。 そう不思議に思いながら手を伸ばしその本を掴み取ると、先程まで冷たかった本が飛和を認める様に、優しい温もりを彼女の掌に与えた。 不思議と惹かれる様な、よく分からない本だ。 早速読んでみようと小さく背中を丸めて三角座り。 読書が比較的好きな飛和は首を傾げながら、何となく興味を持ったその本の表紙を捲った。 新品の様に真っ白な見開きページが視界に広がる。そこにはこう書かれてあった。 『壬生狼 ‥ミブ オオカミ』 その言葉が何を示すのか、飛和にはまだ理解出来ていない。ただそのページの中央で大きな存在感を示す文字を瞳に焼き付けた。
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