壱ノ章

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懐かしい、といった感情がふいに湧き上がり飛和は戸惑いの色を浮かべる。 不思議と温かくなる胸が飛和を突き動かし、体が勝手に動いたかと思うと筆で書かれた様な滲んだ文字を、そっと指が這った。 なぜかその文字は濡れていて、指先に墨が付着した。 ───刹那。 突然視界が鉛色に濁ったかと思うと、 ドブン。 何かが沈んだ様な水の音が響き、世界は暗転した。 辺り一面耳が痛くなる程森閑としており、妙な息苦しさを覚える。 咄嗟に目を閉じていた飛和はそっと目を開けた。 視界に広がっているのは深い深い藍色の水中世界。 糸状となって降り注ぐ、幾筋もの太陽の光が頼りない輝きをもって降り注いでいる。 体に纏わり付いてくる鉛色の水が飛和の体を強く圧迫する。あっという間に失神してしまいそうだ。 「!?…………ごぼっ」 驚愕の余り目を大きく見開き、小さな口をぽかんと開けた。 思わず開けてしまったその口から、大量の水が容赦なく流れ込んでくる。 複数の泡が飛和の口から漏れ出し、つつーっと上に昇っていった。 更に混乱状態に陥ってしまった飛和は手足をばたばた動かしてもがき苦しんだ。
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