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小柄な体系。折れそうな程に細い首筋と四肢、腰つき。
病気でも抱え込んでいるのではと慮る程に、肌は透き通る様に白い。
地面に広がっている柔らかな黒髪は、腰に届く程の長さで仄かに甘いシャンプーの香りがした。
本来くりくりと忙しく動く円い黒の瞳は固く閉ざされており、小さな唇からは僅かながら吐息が漏れている。
寝ているのか気絶しているのかは判断し難いが、どうやら無事に生きている様だ。
それを察した男は恐る恐る少女に近付き、白雪の様な頬をちょん、と指先で突いてみた。
「……」
うんともすんとも言わず、ただただ無反応を貫き通す少女を見て、少々安心する。起きる気配はまるで無しだ。
(放置は、流石にやべぇよな)
男は人道主義者であった。
辺りを注意深く見回し誰も居ない事を確認すると、ジャージに付着した埃をつまみ取って少女を背負った。
今お世話になっている家は、ここから歩いて約二十分程。どうせそこへ帰る途中だったので取り敢えずそこまで運んでやろう。
それに彼女の身をきつく締め上げている包帯も、清潔な物に取り替えてやらなければ。
(ハ……武士ともあろう者が、こんな得体も知れねェ子のお守りに、自ら貴重な時間を割くなんてな。そんな奴ァ俺のみか)
己のお節介加減に失笑しながら、背中を丸めてゆっくりと歩いて行く男。その後姿はどこか頼もしく感じられた。
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