壱ノ章

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--------- 毎日やっても慣れない料理。 ジュッとフライパンが食欲を注ぐ音を上げる。固まりつつある卵の液が、少量の砂糖を自ら絡めて踊り出す。 あ、醤油と塩の量を間違えた。 軽く火傷を負いながら少女は料理を皿に盛り付けると、鼻歌交じりにリビングへ向かった。 「出来たっ。今日の味には自信があるよ」 「お握りの形が歪だ」 「何言ってんの。綺麗なパプリカの形じゃん、頑張ってこの形にしたんだから」 「苦しい言い訳お疲れ様です」 ダイニングテーブルに弁当を連想させる様な料理を並べながら何気ない会話を始める。 痛いところを突かれた少女は眉を歪めた。 「どうせ食べてしまえば皆一緒じゃん」 「どっちにせよ失敗してんだろこれ、塩辛え」 ひょいと卵焼きを親指と人差し指でつまみ上げ、口に含むと直ぐ様文句を零す青年に、少女が頬を膨らます。 「…………」 「…………」 「…………」 「まあ昨日のよりは美味えがな」 「……えへ」 (……ホント単純で扱いやすいな) ころっと表情を変えて愛らしい笑くぼを浮かべた少女は、青年の向かい側にある椅子に座り箸を手に持った。 それに従う様に青年も箸を手に持つ。 「「頂きます」」 箸をおかずの方に向けながら挨拶の言葉を軽く口にする。二人の声が丁寧に重なって小さく響いた。
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