壱ノ章

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因みにこの兄妹は二人暮らし。 他に家族が居ない二人は互いを支え合って、過ごしている。ただそれのみの、特に珍しくも無い家族関係だ。 なぜか妹の方は身体が悲惨な事になっているが。 兄の方は浜口飛一(ハマグチヒイチ)、 妹の方は浜口飛和という。 「──って兄ちゃん、頂きますを言う前に一口食べてるよね」 「あれは毒味」 「毒なんてどこにも無いし、入れる訳無いじゃん」 食事の合間に挟む明るい会話。どこにでも有りそうな、何もおかしくない些細な会話。 二人は暫くそれを数分程続けた。 ……お椀の中の食べ物が残り僅かになってきた頃、飛一は忙しく箸を動かす飛和の細い指先を見据えた。 器用に指を曲げて普通に動かしているお陰で余り違和感を感じないが、固く巻かれた包帯から出ている指先には、爪が無く中の肉が剥がれ落ちている。 どう転んだらそうなるのか、じっと見ていると痛々しい程の怪我が飛和の身体のあちこちを蝕んでいるのだ。 もし飛和が他人の子どもだったなら、腫れ物扱いをしてあまり関わらなかっただろう。 人は大概がそんなもんだと飛一は思っているし、それ位彼女の怪我は酷い。 その指から飛和の顔へ、視線を移す。 相変わらず子どもらしい無邪気な笑みを絶やさずに話している彼女は、本当に普通の少女に見えた。 これ位の擦り傷など何とも無いと言うかの様に。
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