壱ノ章

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そんな彼女に飛一が少し迷いながら口を開くが、何か言いたそうな表情を僅かに滲ませるだけで、結局そのまま口を閉じた。 「どうしたの、お兄ちゃん?」 「んー……」 「何も無いなら話を続けるよ」 彼から微かに漂う淀んだ空気を素早く察知した飛和は、直ぐに話の方向性を巻き戻す。 「……でね、主人公のシンジがもう酷いんだよ~。女心を全然解ってない!でもお兄ちゃんならアスカの気持ちが解るよね?」 「飛和っ!!」 「っ、……はい」 無意識の内に大きく呼んだその名前。びくりと飛和の肩が揺れる。 一瞬怯えが表情に走った彼女は、訝しげに眉を顰めた。 箸がその指から転げ落ち、カランと音を立てる。 「……ホント、突然何なの?」 「…………、 お前の話をいきなり中断したのはまあ、悪ィと思ってる。 が、真面目に聞けよ飛和」 椅子から離れてしゃがみ込み、床に落ちた箸を拾いながら呟く飛和に、飛一は真っ直ぐ視線を向けて言葉を紡いだ。 「お前の将来を考えて思ったが、飛和。やっぱこのままは駄目なんじゃねえか」 「……」 口を真一文字に結んだ飛和は、 戸惑いの表情からふっと暗い面に変えて僅かに俯いた。
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