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実は飛一が何を云いたいのか、前々から普段からの仕草で殆ど察していたのだ。
彼女の本能がその言葉をまだ聞きたく無いと、耳を塞げと、そう伝えているのが嫌でも判る。
……だが、
「うん、十分解ってる」
そろそろ彼の話を聞かなければ、本当に自分の将来が危ない。
何せ、学校どころか外出すら全くしていないのだから。
テーブルの下で握り拳を小さく作り、次の飛一の発言を飛和は静かに待った。
「好い加減新しい学校へ行け」
「……学校」
「安っぽい同情ばっか掛けて、その怪我を理由に甘やかしてばかりいたが、俺なりに真剣に考えて出した結論だ。
もう引越し先は決めてある…俺の気の弱さの余り、今まで黙っててゴメン」
彼のくりくりとした黒の瞳が、首を擡げて兄を見上げている飛和の影を映している。
何故かそれが飛和には怖く感じられた。
……誰かの瞳を覗くのが、何故だか知らないがすごく怖いのだ。目くらみがする程に酷い嫌悪感を覚える。
「……ううん。僕の為に裏で頑張ってたんだよね、ありがとう」
心の裏では嫌だとしきりに叫んでいる我儘な自分が嫌いだ。今すぐにでも抵抗したいと、哭き喚く自分の本心が大嫌いだ。
相変わらずボロボロの太腿を思い切り捻って、沸々と湧き上がる黒い感情を鋭い痛みで何とか抑えると、
飛和はいつもの様に和やかに微笑んだ。
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