壱ノ章

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そうしていると何だか飛一を騙している様で、罪悪感が溢れる。妙な後ろめたさを感じる。 ごめんねお兄ちゃん、僕の方こそこんな臆病な奴でごめんなさい。そう胸の淵で小さく謝った。 「そうだ。もっと俺に感謝しろ、何せ貴重な睡眠時間を十秒も削ってずっと考えていたんだからな」 「ハイハイありがとありがと」 片方だけ口端を上げてクッと冗談っぽく笑う飛一。 馬鹿にされている様で不愉快に感じる人も居る筈だが、この飛一の笑い方が飛和はすごく好きだったりするのだ。 飛一の性格がはっきりと浮き出ている様な、自分だけに見せてくれる貴重な素の表情なのだから。 少しほろりとした飛和は、今度は同じ様に冗談っぽく礼を口にした。 (本当に感謝してるし頼りにしてるんだよ、お兄ちゃん) ───その後、二人合わせて温くなった具無し味噌汁を啜ると、お決まりの様な挨拶の言葉を呟いた。 「ご馳走様でした」 「お粗末様でした」 (味噌汁の味、薄すぎたかな?) 何だかんだで綺麗に食べてくれる飛一の、空になったお椀を見て胸がじんわりと温かくなるのを感じながら、飛和はふと考えた。
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