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「俺、この詩、好きなんですよ」
「えっ?」
「『永訣の朝』
賢治の作品の中でも、これが一番、好き」
「賢治、って」
八木君て、絶対、モテるだろうなあ。
こういうさりげない優しさって、女の子は嬉しいんだよ。
なーんてね。
ふふっと頬が緩んだ、刹那。
彼は真っ直ぐに私を見つめ、口を開く。
「だって、死ぬ間際に、―― 必死に何か頼まれたら。
全力で叶えてあげたいって思いますよね、先生?」
一瞬、――。
彼が何を言ってるのか、わからなかった。
「えっと……」
「俺の手を握って、必死に何か頼み事されたなら。
俺なら、走るなあ。
俺しか出来ないって、頼まれたなら」
八木君の言葉が、容赦なく私に突き刺さる。
「雪だって、星だってなんだって取ってきてみせる。
最期のお願いなんだから、絶対に叶えてあげたいって思う」
それは、目の覚めるような鋭い痛みを伴って、私を追撃した。
「好きな人が望むなら、例え自分を失くしても、何だってやってあげるよ」
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